アバターと「私」

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今回はSF映画『アバター』のように、AIが搭載された生体マシーンを操縦する「魂」としての人間を想定して、その生体マシーンのAI部分の仕組みや乗りこなし方について想像を巡らせてみたいと思います。

なぜこんなことをしてみようと考えたかというと、このブログで度々紹介している脳科学者ジル・ボルト・テイラー博士の本『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』と『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』を読み、更にこれまで40年にわたって臨死体験の研究を重ねている国際的な団体「International Assosiation of Near-Death Studies Inc」の発信したものなどで、たくさんの臨死体験者の証言を読んだり聞いたりして、「私」というものが一般的にわたしたちが思っているようなものではなく、むしろアバターのようなものという気がしてきたからです。

奇しくもジェームズ・キャメロン監督の『アバター2』が2022年12月16日に公開されます。アバターはパンドラという星に住んでいるナヴィという原住民と地球人のDNAを掛け合わせて作られた生命体に神経をつないで地球人の意識を憑依させて操作するということから展開される話です。

わたしは、わたしたち人間そのものが、アバターのようなシステムで生きているのではないかと思っているのです。神経ではなくチャクラでつないで人間の肉体に宿り生きていると考えるとなんだかワクワクします。

Body, Mind, Spirit, and Soul

YMCA(Young Men’s Christian Assosiation)という団体がありますが、この団体は1844年にイギリスで青少年の健康的な成長を願って誕生しました(出典:東京YMCA)。わたしは中学生のときにYMCAの夏季講習に行き、団体の建物に記されていたマークに「Spirit/Mind/Body」と書かれているのを見たのをはっきりと覚えています。その頃のわたしは、カラダと意識については認識していたのですが、意識の部分をSpiritとMindに分けていることにハッとしたので覚えているのです。調べると、YMCAではSpirit=精神、Mind=知性、Body=身体の調和を全人的とし、この三つのバランスが取れた成長を健康的な成長として目指しているそうです。

揚げ足を取るようですが、細かく言えば、「身体」は心や精神を含んだ人間のカラダを指すようです(出典:マイナビ)。一方「体」は精神を含まない胴体だけや人間以外の生き物の体全体を意味するそうです。「身体」は分けたはずの「精神」と「知性」が再度含まれる表現になってしまうので、厳密には「体」とするのが意図に適った表現のようです。特に非常に大きな前頭葉を持つ人間には他の生き物にはない仕組みがあるので、それを自然と日本語は区別しているのかもしれません。

わたしは「Soul=魂/本質」、「Spirit=精神/人間の普遍性」、「Mind=思考/知識」、「Body=体/生体スーツ」ではないかと考えています。

体が死んだあと~魂

スピリチュアルの世界では、肉体としての「私」が死んでなくなっても、魂としての「私」はなくならないと説いているものが多いようです。

実際に病気や事故による多臓器不全から昏睡状態を経験した人々の中には、その「臨死体験」で肉体を離れ横たわっている自分の体を見下ろしたときのことを語る人々がいます。その一人であるアニータ・ムアジャーニさんはその著書『喜びから人生を生きる! 臨死体験が教えてくれたこと』の中で肉体を離れたときの様子を書いています。脳外科医のエベン・アレグザンダーさんも『プルーフ・オブ・ヘヴン―脳神経外科医が見た死後の世界』で死後にも意識が続くということを証言しています。

この「肉体に魂が宿り、肉体が死ぬと出ていく」というイメージは前述の『アバター』に似ています。

アニータさんは生体から解放されると、同時に肉体に付随した性別や人種から解放され、文化、エゴ、執着、恐れからも解放されると言っています。それらはフィルターのレイヤーとなっており、死んで残るのは本質(魂)であると言います。アニータさん自身の意識は消えていないし、先に亡くなっていた父親や親友の本質と会ったと言っており、会った魂がかつて誰であった魂なのかということが認識されています。

ということは、やはり人間の体に乗り込む前の、魂と呼ばれる意識体があるということでしょう。

魂が纏うフィルターのレイヤー

『アバター』では主人公ジェイクは元海兵隊員の伍長であること、戦闘によって負傷したために下半身不随であること、そのアイデンティティや葛藤を持ったまま人造ナヴィに神経回路を繋いで乗り込みますが、アニータさんの話から察するに、人間に乗り込む魂はもともと性別も人種も持っていないようです。むしろ、肉体に乗り込むことで、それに付随する性別や人種がアイデンティティや葛藤を纏っていくように思われます。

そう考えると、性別や人種は生体マシーンの特徴やブランドのようなものとして捉えることができそうです。車に例えれば、車種は言うまでもなく、ブランドはランボルギーニ、ロールスロイス、メルセデスベンツ、トヨタなどなど枚挙にいとまがないほどあります。

肉体に乗り込んでも、わたしたちはジェイクが地球人ジェイクであった自分を覚えていたように、自分が何者であったかを覚えている領域があるように思います。これを最初に纏うレイヤーとしましょう。肉体の性別や人種に関係ない領域です。良心や徳や品や愛など普遍的で変わることがないようなものです。ここには個人のアイデンティティを超えた人類というまとまりの人間性があります。

次に魂が纏うのは、性別や人種や生まれた時代や所属グループや土地など、物理的な特徴やその関係性に付随する「人間とは」「母親とは」「女とは」「日本人とは」のような問いに答える共通認識、社会通念、意味や文化のレイヤーでしょう。これらの言葉(名前)の意味はひとつひとつ定義され、多少のずれはあるものの、言葉を使ってコミュニケーションしている人同士の間ではいちいち説明しなくても同じ意味として理解されます。車もどんな車に乗っているかでステータスやその人が何となく伝わってしまいます。これらをわたしたちはアイデンティティと呼んでいると思われます。さらに、それら意味や文化のレイヤーつまりアイデンティティを背景に発生するエゴ、執着、恐れなどのレイヤーが発生します。これらはそれぞれの個人的な経験に基づきます。そのため、何に執着するかなどは人それぞれ違っています。こういう執着や恐れなどが作り出すのが個人の物語で、様々な感情がここから生まれては消えていきます。

ユングは「集合的無意識」にはカテゴリーがあり、カテゴリーの階層はより局所的なものから普遍性の高いものへとつながっていると言います(「自我と自己~チップからの解放」を参照)。この階層という認識は、アニータさんの「フィルターのレイヤー」という表現と同じもののように感じられます。

精神(人間の普遍性)

精神は「時代の精神を代表する」、「フロンティアスピリット」などの使われ方を考えると、一定の条件下で多くの人が共有できる思想や概念として使われるので、魂が纏う最も「普遍性の高いもの」のレイヤーが「精神」と呼ばれているものだろうと想定します。

なので、わたしは性別や人種を超える人類愛や人間の良心のようなもの、小さな子どもや動物を可愛いと感じ、大自然に感動を覚え、人とつながって力を合わせることに喜びを感じたり、自分の仕事を楽しいと感じ、芸術を愛し創り出さずにいられず、肉体をもって生きている喜びを全身で表現し、自分の命を大切にするように命を大切に感じる部分を指して「精神」と呼んでいるのではないかと考えています。これが個々の魂として持っているコアなレイヤーで、わたしたちの本質でしょう。

思考(知識)

「集合的無意識」の「精神」の下の階層、ユングの言う「より局所的なもの」が「思考」でしょうか。知識とは、他と比べることで知る差異、それを定義する名前(言語)、文化としての共通認識などが含まれるでしょう。そこには「あるべき姿」や「あるべき振る舞い」、例えば肉体の特徴による男女の役割分担や人種による偏見を含む、ステレオタイプ的な見方・判断基準があると思います。これらは物語が生まれる背景となり、それぞれの人間が世界とどんなかかわりをしていくかを決めるための素地となる気がします。

生体マシーンのAI部~脳

ボルト・テイラーさんは、『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』で脳を大きく4つのキャラクターとして理解することができるとしています。以下がその特徴です。

  • 左の思考脳(左前頭葉:言語・時間・規律・時系列・分析・詳細・差異・個)
  • 左の感情脳(左大脳辺縁系:用心・恐れ・孤独・条件・疑い・正しさ・意図的)
  • 右の思考脳(右前頭葉:非言語的・視覚的・共時性・俯瞰・類似・全体)
  • 右の感情脳(右大脳辺縁系:勇気・親愛・信頼・無条件・協力・感謝・偶発的)

彼女の脳の4つのキャラクターを当てはめてみると、「精神」は「右脳」、「思考」は「左脳」ではないかという気がします。

さて、乗組員の魂、生体マシーンの体、AIの脳がそろいましたので、ここから「ナヴィ・アバター」ならぬ「ヒューマン・アバター」の世界へ行ってみましょう。

ヒューマン・アバター操縦法

左脳前頭葉=オートパイロット

わたしたちは記憶があいまいな部分や知らないことについて、欠如部分に物語を作って埋め合わせて補おうとする傾向があると言います(詳しくは「カラダとココロのカンケイ」で書いています)。これは作話症だけでなく、目も同じように見えていない部分を補う作業を脳がしてくれます(錯視・錯覚から迫る脳の視覚情報処理メカニズム)。これら認知のゆがみにもつながる脳の情報処理メカニズムは、現実からわたしたちを遠ざけるメカニズムでもあります。この機能はボルト・テイラーさんによると左脳に配置されているようです。

この機能は一度経験したことを記憶して理解の時間を省略してくれるので、時短になり非常に便利ではありますが、事実を誤認させることもあるのが特徴です。

航空機を想像してみてください。オートパイロットは操縦士の負担を大きく軽減してくれます。積載荷重と飛行距離を入力すると、必要な燃料量を計算してくれ、適切な航路と高度と速度を計算し、離陸した後は多少の気流の乱れや流れの向きなどは自動で調整して安全に目的地まで操縦してくれます。この予測計算が正に左脳の機能です。過去のデータに照合して、現在わかっている数値から、未来の結果を導き出しているのです。

この「ヒューマン・アバター」も同じ仕組みで左脳の前頭葉が前回のブログ「知能と幸福」でも書いた「結晶性知能」を使って、わたしたち操縦士の負担を減らし、代わりに日常のほとんどのことを難なくこなしてくれています。

左大脳辺縁系=アラームシステム

アラームシステムである左脳の大脳辺縁系は危険や不快の記憶を留めておき、似た状況を察知するとアラームを鳴らしてくれます。感情を伴った記憶が認知症の症状が進んだ人にも残りやすいのは、この感情をつかさどる扁桃体と記憶の入り口である海馬のセットが、リスクを避け利益を得るために強く働くためであろうといわれています(詳しくは「煩悩を払う」をどうぞ)。

このアラームシステムは、生命維持と繁栄のために備わった機能なので、いわば損得の判断をする基準を示します。この基準だけに従っていると自分勝手で嫌な人になってしまいます。単なるアラームなので、損得のためにしたことで、周囲に嫌われると結果としては損をすることに繋がる、ということまで考えることはできません。

また、このアラームは切らない限り、鳴り続けるようです。アラームが鳴っていると、コルチゾールやノルアドレナリンなどのホルモンを放出するので、不安や怒りなどの状態が続いて生体マシーンの劣化や不調を引き起こす原因となります。

右脳前頭葉=手動操縦

航路に想定外の巨大な積乱雲が見えてきて、乱気流の影響が感じられ、アラームが鳴り始めたら、当然オートパイロットを切って手動で積乱雲を避けますよね。

オートパイロットを切ると、右脳の出番です。

面白いことに、autopilot=自動操縦を心理学的な人間の状態として表現する際の反対語はconsciousness=意識です(出典:Antonim.com)。別の反対語にはSelf-awareness=自己認識やsense=感覚がありました。ボルト・テイラーさんは右脳の機能しか使えなくなったとき、時系列的な時間の流れがなくなり、自分の始まりと終わりの感覚もなくなったそうです。その代わり、宇宙すべてのものと一体化した感覚があり、「今・ここ」しか感じられなくなったといいます。

ボルト・テイラーさんの『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』によると、別に脳卒中を起こさなくても左脳の働きを弱め、右脳の機能を使って「今・ここ」に意識を戻すことで、不安や心配、嫉妬や恨みから解放されるそうですのでご安心ください。

手動操縦に切り替えると、冷静に穏やかに、より大きな視点でものごとを見ることができるようになり、大らかで包括的な判断をするそうです。そういえば、時にはじっとしているだけで問題をやり過ごすことができることもありますね。

また、右脳前頭葉はユングの言う普遍性の高い集合的無意識につながっているようです。ボルト・テイラーさんは右脳について以下のように説明しています。

右脳マインドの性格は冒険好きで、豊かさを喜び、とても社交的。言葉のないコミュニケーションに敏感で、感情移入し、感情を正確に読み取ります。宇宙とひとつになる永遠の流れを気持ちよく受け入れます。それは聖なる心、智者、賢人、そして観察者の居場所なのです。直観と高度な意識の源泉です。右脳マインドは常にその時を生きていて、時間を見失います。

『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき』

前半部分はこのあと説明する右大脳辺縁系で、後半が右脳前頭葉の説明になると思います。

落ち着いて包括的にものごとを見るだけでは、危険を避けることはできないので、いったんパニックから立ち返って気分が落ち着いたら、次にやるのはリサーチとチェックです。

右大脳辺縁系=リサーチ・チェックシステム

生体マシーンにおける右脳の大脳辺縁系の機能はリサーチとチェックシステムです。

前出の引用にあったように、右脳辺縁系は「冒険好きで、豊かさを喜び、とても社交的。言葉のないコミュニケーションに敏感で、感情移入し、感情を正確に読み取り」ます。ボルト・テイラーさんによると、右脳の大脳辺縁系は好奇心旺盛で遊び心にあふれて元気いっぱいなのだそうです。左脳と違って時間を持っていないので、「今・ここ」以外の「つらい過去」や「不安だらけの未来」に彷徨い出ることがありません。今、まさに目の前にある状況をしっかり確認してくれます。

リサーチとチェックシステムが動けば、現状をくまなく確認して状況を把握し、原因を突き止めたうえで、新たな今までと全く違う安全な道を見つけたり、解決方法を見つけたりしてくれます。このシステムは右脳前頭葉と組んで今まで試したことのない方法を「結晶性知能」ではなく「流動性知能」(意味は「知能と幸福」を参照)を使って直観的に素早く見出します。

見出した解決法を右脳の前頭葉と左脳の前頭葉が協力して淡々と実行し、現状を正しくリサーチ・チェックシステムが作動し、危険がないかアラームシステムが監視してくれれば、行き詰まりを打破して新しい能力と自信をもって、楽しくかつ安全に生体マシーンを乗りこなすことが可能となります。

故障かな?と思ったら

故障かな?と思ったら、自棄(ヤケ)を起こしたり、体調を崩したりする前に、以下の点をチェックしてください。脳のそれぞれの部分はそれぞれの機能を担っていますが、同じ部分で違う機能の働きをやらせることはできませんのでご注意ください。また、他の生体マシーンに乗った魂とのやり取りで、相手の困ったシステム状況に出会ったり巻き込まれたときにも、以下の点を参考に、共感力を持って接してみてください。

  • 新しいことに挑戦したいのに怖くてできない
    • アラームシステム及びオートパイロットは切っておかなければなりません。なぜなら、新しいことを試すのが大嫌いなシステムだからです。アラームシステムとオートパイロットを戻すのは、取り掛かる寸前にしてください。
  • 自律神経系の不調が続く
    • アラームからオートパイロットだけ長く繋いでいると、似て非なる現状に対して有効ではない方法で対処しようとしてエラーを起こし続ける可能性があります。
    • まずはアラームを止めます。そのためには自分の状態に興味を持ってみましょう。そうするとアラームの代わりにリサーチ・チェックシステムが働き始めます。正しい原因を把握し、適切な対応方法を見つけてくれるでしょう。
    • 適切な対応法のひとつにリラックスがあります。リラックスは手動操作への切り替えると自動的になる状態です。切り替え方法もリサーチ・チェックシステムが良く知っています。
      • 音楽を聴く
      • 絵を見たる
      • 匂いを嗅いぐ
      • 食べる
      • 体を動かす
      • 自然の中を歩く
      • 温泉に浸かる
      • 瞑想
      • マインドフルネス
      • ヨガをする
      • 創作する
      • 演奏する
      • 歌う
      • 注意:お酒やドラッグはリラックスにはつながらず、アラームを一時的に切るだけで、効果が切れたときに欠乏を増すようになりますので避けてください。
  • 幸せを感じられない
    • オートパイロットを使い過ぎています。オートパイロットも必要な機能ですので、なくすことはできません。バランスが取れるように右側の脳が喜ぶことも思い切りやってください。
    • やることは、自律神経の不調の対処と同じです。

もっと緊急性を要する場面でのトラブルシューティングや、実用的な全体脳の使い方については、ぜひジル・ボルト・テイラーさんの『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン) 心が軽くなる「脳」の動かし方』をお読みください。





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