「やさしい現実」シリーズ第3弾をお届けいたします。
あなたがここへたどり着いたのは何を探していたからでしょうか。現実が厳しいと感じたからでしょうか。現実はわたしたちが思っているよりも優しいものです。
でも、何か思い通りにならないと思うことがあるなら、それは現実と戦っている証拠です。現実と戦えば必ず負けます(バイロン・ケイティ)。
この記事との出会いが、あなたにとって現実と戦わずにあなたの大事な人生を大切な人々と豊かで穏やかなものとして生きていくヒントになればうれしいです。
インターナル・ファミリー・システム(IFS)
やさしく現実と向き合う手伝いをしてくれるメソッドの第3弾はインターナル・ファミリー・システムです。インターナル・ファミリー・システムは、アメリカの心理学者で家族療法士であるリチャード・C・シュワルツ博士が開発した心理療法です。
家族療法
自分で試してみるメソッドも紹介されていますが、まずはその全体像を理解する必要があるため、簡単に内容を紹介するのが難しいです。説明が続いて長くなってしまいますが、まず、ベースとなった家族療法について説明します。
家族療法とは
家族をシステムとしてとらえ、個人の心理的側面のみならず,家族メンバー間の相互影響関係や社会との交流も視野に入れた心理療法,家族関係にダイレクトに介入できるメリットがある。
『よくわかる家族心理学』柏木惠子編著
もともとは、投薬や入院が必要なほどの統合失調症という精神疾患を抱えた患者さんが、入院治療によって寛解しても、家に戻ると再発するというケースが多かったことから、家庭に原因があるのではないかと仮説を立てて研究されるようになったという成り立ちがあります。
家族療法を含む心理療法には、精神分析療法、認知行動療法、ゲシュタルト療法、催眠療法、森田療法、芸術療法、EMDR、ソマティック療法などなど新旧たくさんの手法がありますが、家族療法は家族療法という一つの決まった療法があるのではなく、個人ではなく家族を対象とした心理療法ではあるという意味であり、その理論にはMRI派、戦略派、構造派、多世代派など様々な理論があり、先にあげた精神分析などの療法をそれぞれの理論に合わせて組み合わせたり、リフレーミング、ジョイニング、逆説的介入などの家族療法でよく使用される手法を駆使しながらアプローチします。
家族療法では基本的に家族をひとつの「システム」として捉えますが、そもそも「システム」とは何でしょう。Wikipediaによれば「システム」とは、
システムは、相互に影響を及ぼしあう要素から構成される、まとまりや仕組みの全体。
Wikipediaより
のことを指します。
家族システムに当てはめると、「相互に影響を及ぼしあう要素」とは夫婦・親子・きょうだいなど家族の構成員の関係のことです。ペットを家族として扱う家庭ではペットも含まれるでしょうし、核家族ではなく義理の家族や祖父母やいとこなどと近しい関係にあれば、その人たちも含まれます。
個人の心理療法で解決しない問題を家族療法で解決すると聞くと、家族の中で犯人探しをして問題解決すると考える人もいるかもしれません。しかし、家族療法は犯人探しではありませんし、誰かを悪者として家族から切り離して終わることはありません。
家族のメンバーを犯人として断罪して排除するのではなく、家族全員はそのままに、家族同士の関係に起きているコンフリクトを見つけてコミュニケーション不全を改善することで、悪い影響を与え合う関係のシステムから脱することを目指します。
社会を作って生きる動物の一つである人類が、社会を作る目的は助け合いです。助け合いの目的はメンバー全員の幸福の実現です。
家族療法の学派によって具体的なアプローチの方法はそれぞれ違いますが、共通点は家族の間で問題を起こしている「人」ではなく、「関係性」に焦点を当てて問題解決を行うということでしょう。
では、インターナル・ファミリー・システム、内部の家族システムとはどんなものなのでしょうか。
個人の中にも関係性があった
リチャード・C・シュワルツ博士は、1980年代に過食症のクライアントと話していて、偶然個人の中にいる「パーツ」のことを知るに至りました。
私は過食症の患者を対象に家族療法の効果を調べる研究調査を行いました。その結果、家族の関係がよくなったにもかかわらず、彼らの過食嘔吐が治まらなかったことを発見し、ショックを受けました。その理由をクライアントに尋ねたところ、彼らは自分の中のさまざまなパーツについて語りはじめたのです。まるで、そのパーツたちが自主性を持っているかのように、または、そのパーツに乗っ取られてやりたくないことをやらされているかのように、彼らはパーツについて話したのです。
『「悪い私」はいない 内的家族システムモデル(IFS)による全体性の回復』リチャード・C・シュワルツより
多重人格障害(解離性同一性障害)のように生活に支障が起きるほどではないにしても、どんな人にも「パーツ」があるとシュワルツ博士はいいます。
調べるうちに彼は自分の中にもパーツがあると気づき、クライアントにパーツについて質問し始めます。そしてインターナル・ファミリー・システムが出来上がります。
私は興味を持ち始めました。そしてクライアントにパーツの説明をしてくれるよう頼んでみると、非常に細かく説明してくれました。それだけでなく、パーツ同士がどのように作用しあい、どのような関係を持っているのかも教えてくれました。あるパーツは互いに争い、あるパーツは同盟を組み、あるパーツはほかのパーツを守っていたのです。
やがて私は、自分が今までセラピーで扱ってきた「外的」な家族関係と親和性のある、ある種の「内的」なシステムについて学んでいることに気づきました。そこで私はこれを「インターナル・ファミリー・システム(内的家族システム)」と名づけたのです。
例をあげると、あるクライアントは、自分が失敗をしたときによく現れる、容赦なく自分を非難し、攻撃してくる内なる批判者のパーツについて語ってくれました。その攻撃は、自分は完全に見捨てられ、孤独で、からっぽで、無価値だと感じているパーツを刺激し、反応を引き起こします。その無価値感を持つパーツが出現すると、それを感じることは苦痛なので、まるでそこから救出しようとするかのように過食するパーツがやってきます。そして、それはクライアントの意識を身体から追い出し、無感覚のまま食べまくる機械に変えてしまうのです。
すると、また批判者のパーツがその過食するパーツを非難し、それがまた無価値感を持つパーツの反応を引き起こします。そして、気が付くと何日もの間、この悪循環に巻き込まれているのです。
『「悪い私」はいない』より
パーツ(自我状態)
インターナル・ファミリー・システムで使われている個人の中にいる複数の「パーツ」という概念は、ほかの心理療法でも使われていますが、実はみな同じ精神分析の「無意識」の領域の発見が端緒となっています。
複数の「パーツ」という概念のおおもとになっているのは、ポール・フェダーンというアメリカの心理学者の研究です。フェダーン博士はかの有名なフロイトの弟子のひとりでもあります。
フロイトの功績といえば、精神分析学の確立と「意識」「前意識」「無意識」の3領域に分けて考える「局所論」と「イド」、「自我」、「超自我」からなる「構造論」を開発したことでしょう。構造論だけ見れば、この時点でフロイトはすでにわたしたちの中にイド、自我、超自我と、3種類の自我状態のようなものとその関係性があることを見出していました。しかし、フロイトはそれぞれの自我に独自の人格があることを認めることはありませんでした。
フェダーンは「自我」が部分的で動的構造をしており、統一され固定されたものではなく、しかし「自分自身は全体的で、永久的で、絶対的であると信じて」いると考えていました(From Over the Seaというブログ「影の機能モデル(MBTI派生理論):元型コンプレックスと元型の働き方」より)。
フェダーンは交流分析のエリック・バーンと自我状態療法のジョン・ワトキンスに影響を与えています。交流分析でも自我状態療法でも、個人の中の複数の自我という概念をベースにしています。
バーンはフェダーンと発達段階理論のエリク・H・エリクソンにも師事しており、エリクソンもまたフェダーンに師事していたので、フェダーンは直接・間接的にバーンの交流分析療法に影響を与えたということのようです。
交流分析では最初にバーンが親・大人・子どもの3つの自我状態があるとし、のちにバーンの弟子デュセイが親を厳しい親と優しい親に、子どもを奔放な子どもと従順な子どもに分けて、5つの自我状態となりました。5つのパーツが他人のパーツとやり取りする際に生まれる葛藤を、いつもと違うパーツに出てきてもらうことで人間関係の問題を解決するというのがメインのコンセプトです。
自我状態療法では、心理的なストレスがかかった場合にそれに対処するために、都度自我状態が生まれ、自我状態同士の間に葛藤が起きるとしています。この場合はきっかけは他人とのやり取りであったにせよ、その葛藤の場は個人の中のパーツたちの間に起きていて、パーツに対して個人に行う心理療法を使って個人の精神状態の問題を解決するわけです。
インターナル・ファミリー・システムのシュワルツ博士がクライアントとの会話中に出会った「パーツ」は、自我状態療法で扱われる「複数の自我状態(パーツ)」の解釈に近く、「パーツ」自体がそれぞれ感情を伴った人格として自分の考えと主張を持っており、個人の中に家族のように「パーツ」同士の関係性を持っていました。
私のイメージとしては、交流分析は自己啓発的や社員研修などにも利用でき、自我状態の乖離が比較的小さいケースに利用され、自我状態療法は解離性人格障害などの自我状態の乖離が大きく、本人もその周囲の人たちも生活が困難になっているケースに利用されるイメージです。自我状態療法では催眠やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)やソマティック療法(身体技法)など、より実践的な治療を積極的に色々な手法を組み合わせながら行います。
インターナル・ファミリー・システムは乖離や葛藤の大小は問わずに利用できる点、スピリチュアルな観点を持っている点、身体疾患にも効果があるという研究がなされている点、社会運動や対立の解決などにも活用できる点が、ほかの同じ「パーツ」を扱う心理療法と違っている点だと思います。
では、「パーツ」と家族療法を合体させたインターナル・ファミリー・システムの考え方や具体的なを紹介していきましょう。
概念
インターナル・ファミリー・システムの特徴だとわたしが考えるのは以下のものです。
- 「セルフ」という本質の人格という概念
- 「セルフ」に対して「パーツ」を副人格とする考え
- 「ブレンド」という概念
- 「パーツ」に「身体」があるという概念
- 「パーツ」に宿る「重荷」という概念
- 「システム思考」(これについてはいずれ別の記事として書きたいと考えています)
- 「パーツ」に対する共感と理解
- 「スピリチュアル」な観点
セルフ
「セルフ」の概念はインターナル・ファミリー・システムに欠かせないものです。セルフの発見は以下のように行われました。少し長いですが引用(太字原文より)します。
そこで私はこの「脇によける」という家族療法の手法を、内なるパーツに対しても使いはじめました。他のパーツに脇によけてもらうことで、それぞれのパーツの話をよりじっくりと聞けるようにするのです。
例えば、話をしたいパーツ、この場合は「批判者のパーツ」に対して「怒っているパーツ」を探し、クライアントに「そのパーツに少しの間、脇によけてもらうよう頼んでもらえますか」と伝えます。すると驚いたことに、ほとんどの人が、それほど躊躇することなく、「はい、できました」と言うのです。そして、パーツに脇によけてもらうと、クライアントはまったく別の状態に変化していくのです。
(中略)次々に現れるパーツもわきによけ、クライアントに話すスペースを与えると、その人は、よりマインドフルな状態になり、批判者のパーツに対して好奇心を持つようになるのです。
(中略)
クライアントがその状態でいると、パーツとの対話がうまくいきます。批判者のパーツは警戒心を解き、その隠された歴史を語り、クライアントは慈愛とともにその話に耳を傾け、そのパーツが守ってきたものについて理解する、といった具合です。
(中略)
そして、クライアントがそのような状態にあるとき、「それはどのパーツですか」と尋ねると、「これはほかのパーツではありません。これは私そのものです」あるいは「私の本質に近いものです」「これが本当の私です」と彼らは答えるのです。
これが、私が「セルフ(The Self)」と呼んでいるものです。そして、何千時間にもわたってこの仕事を続けてきた結果、私はこのセルフが誰の中にもあると確信をもって言うことができます。
さらに言うと、セルフは傷つくこともなく、成長する必要もないのです。そして、セルフは内的関係だけでなく外的関係を癒す方法についても独自の知恵を持っています。
私にとって、これは偶然見つけたもっとも重要な発見です。これがすべてを変えるものです。
防衛パーツが脇によけ、スペースが開かれると、そのすぐ下のセルフが自然にたいていは突然、誰の中からも現れてくるのです。
『「悪い私」はいない』より
シュワルツ博士がセルフの資質として書いている内容を書き写してみましょう。
『「悪い私」はいない』より
- 8つのC
- Curiosity(好奇心)
- Calm(落ち着き)
- Confidence(自信・信頼)
- Compassion(思いやり)
- Createvitiy(創造性)
- Clarity(明晰さ)
- Courage(勇気)
- Connectedness(つながり)
- 感覚
- 明晰さ
- 広々とした感じ
- 今ここにいる感じ
- 思考がない感じ
- 幸福感
- つながっている感覚
- 自分の体の中にいる、という感覚
- 信頼感
- 5つのP
- Patience(忍耐)
- Persistence(強さ)
- Presence(存在感)
- Perspective(広い視野)
- Playfulness(遊び心)
これは、ホールブレインの4つのキャラに当てはめると、右脳の〈考えるキャラ4〉と右脳の〈感じるキャラ3〉でしょう。そして、ホールブレインの回で、「なぜ右脳がその人の本質であると思うかについては、今後別の機会に書くことにします」と予告した内容はここにつながっています。
シュワルツ博士がクライアントから「これはほかのパーツではありません。これは私そのものです」「私の本質に近いものです」「これが本当の私です」と聞いたと上の引用にあるのがその根拠です。
テイラー博士自身も、心理学の複数の自我状態という理論との共通点について、とあるポッドキャストのインタビューでインターナル・ファミリー・システムについて言及し、インターナル・ファミリー・システムのエグザイルなどのパーツは、自分が脳解剖学者として脳卒中により失ったことでその脳の部位が担っている機能によって4つのキャラとして認識できることを発見した4つのどれかに当てはまると言っていました(英語のみですが当該の動画は最後にあります)。彼女はまた著書『ホール・ブレイン』の中でもはっきりとその共通点について「また、精神衛生上の問題をコントロールするための代替手段を探しているなら、人格の異なる部分を認識し、協力させることで、健全な解決策を見つけるという、リチャード・シュワルツ博士の「内的家族システム」モデルは面白い戦略です。」と記述しています。そして、テイラー博士は〈考えるキャラ4〉と〈感じるキャラ3〉について、以下のように表現しています。
〈キャラ4〉は、私たちが生まれたときにもっていたオリジナルの意識であり、脳と体が神経学的に機能するようになる前のもの。脳が体の境界線を決めるずっと前、私たちは細胞生命の塊にエネルギーを入れたり出したりするだけの存在でした。
(中略)
機能的には、〈キャラ4〉の細胞は、〈キャラ3〉が経験する肉体としての生命と、宇宙の無限の意識とのあいだを神経学的につなぐものとして存在しています。言い換えれば、私たちの脳の〈キャラ4〉の部分は、肉体的な経験もしている精神的な存在なのです。私たちが「無限の存在」の一部として存在することを可能にする、私たちを「高次の力」とつなぐものです。あなたの信念体系(宗教的、哲学的、科学的、その他)にあった言葉を使ってください。とにかく、このキャラが宇宙意識として存在していることを忘れないで。
『ホール・ブレイン』ジル・ボルト・テイラーより
ホールブレインの右脳の〈考えるキャラ4〉と〈感じるキャラ3〉の「セルフ」に似ていると思われる特徴をいくつか引用してみましょう。
キャラ4
- 総合的に大局を見る
- 類似点を探す
- 思いやりがある
- 柔軟性/弾力性
- 「私たち」を重視
キャラ3
『ホール・ブレイン』より
- おおらか
- オープン
- フレンドリー
- 無条件で愛す
- 信頼
- 支える
- 感謝する
- 分かち合う
- 優しい
もしもわたしたち人類の本質が上記のようなものであるというのが、テイラー博士が体験した通り本当であるとするならば、性善説の根拠もここからきていると考えていいのではないかと思います。わたしたちの本質とは、テイラー博士の言葉を借りれば「美しくて、平和的で、思いやりのある、愛情深い」ものなのでしょう。
では、テイラー博士と逆、その人の本質である右脳の機能をなくすとどうなるでしょうか。右脳に損傷を受けて体の左側に麻痺が起きた人には「性格変容」といって、怒りっぽくなったり妄想的、被害的、暴れるなどの症状が起きることがあるそうです。また、左側にある対象物を認知できない「半側空間無視」という症状が現れることもあるようです。極端になると自分の手足や顔のパーツすら認識できず、麻痺した自分の足を義足が置いてあると言って怒り出す、ということすらあるそうです。しかし、左脳に損傷を受けて右脳メインになった人には体の右側に麻痺が起きますが、それでも右側の対象物を認知できないという「半側空間無視」は起きません。これは、右脳が総合的に物事を見、全体を一つとして見る機能を持っているためであろうと思います。
これは左脳が愚かな怒りっぽい副人格で、右脳が賢いメインの本質のセルフである、どちらが上だ下だという優劣の話ではありません。セルフも、パーツなしに「この世」で一人の人間として社会生活を送ることはできないのです。
なぜなら、満ち足りて、すべてありのままを愛するセルフだけでは、向上心を持って何かに一生懸命取り組んで、目標を達成する喜びを味わうことはないからです。
未知に対する不安や恐怖、未知なものを解明して得る安心、できないことがある悔しさ、できなかったことができるようになる喜び、わからないことがある恥ずかしさ、わからなかったことがわかる楽しさ、人に分かってもらえないもどかしさや腹立たしさ、仲たがいしていた人と再び分かり合い仲直りする嬉しさ、なくて体験する困難、なかったものを作り出す面白さ、別れの悲しさ、出会いのありがたさなどは、副人格たちがもたらす賜物なのです。
パーツ
パーツにはいくつか元型となるものがあります。
- エグザイル
- 防衛パーツ
- 管理者
- 消防士
それぞれをざっと説明しましょう。
エグザイル
- トラウマや愛着に傷を受けている別名インナーチャイルド
- 敏感で傷つきやすい
- 過去の場面に凍りついている
- 慢性的に傷ついている
- その恐ろしい場面に引き戻す力がある
- セルフに目を向けてもらいたがって必死になっている
- 追放された激しい防衛パーツもいる
- フロイトの「イド」に当たる
- しばし宗教などの妄信者となって支配を許してしまう
防衛パーツ
防衛パーツはエグザイルを小さな子どもだと思っており、苦悩によってエグザイルが死んでしまうかもしれないと思っています。そのため、防衛パーツにはネガティブな感情からエグザイルを守るという使命があるのです。防衛パーツの性質は大きく2タイプに分かれます。「管理者」と「消防士」です。
管理者
- 外界をコントロールする(周りの大人がした方法で)
- 自分を怒鳴りつける
- 自分に対して批判的
- 自分をおろそかにして人の面倒を見ようとする
- 身体から自分を切り離させる
- 親代わりの子ども
- 非常に疲れている
- ストレスを感じている
- 世界を安全に保とうとしている
- エグザイルを閉じ込める
- 体を麻痺させる
- エグザイルがコントロールから外れることを嫌う
- エグザイルが心を開いたり、自信を持ったり、自分に対してよい気持ちを持つことを嫌う
- 所属したい、みんなを喜ばせたい
消防士
- 管理者でもエグザイルの感情が止められずに「防衛機制」を突破したときに出動する
- 必死にエグザイルの感情の炎をかき消そうとする
- お酒や薬物などの依存性のある刺激で感情をかき消すか、炎が燃え尽きるまで気をそらそうとする
- あなたの健康や人間関係への影響はほとんど気にとめず、必死の手段で訴える
- 消防士によっては自殺という選択肢も持っている
- スピリチュアルや瞑想やヨガなどの修行で感情から逃れようとする消防士もいる
- 幼いエグザイルにとってのベビーシッターのようなもの
- 消防士だけではエグザイルが泣き叫ぶのを止められないときには外に助けを求め、結果グルやスピリチュアルリーダーなどに熱狂してしまう
- 安全だと思わなければ瞑想の邪魔をする
ブレンド
セルフにパーツの一人の視点、感情、信念、衝動が混在している現象をブレンドといい、セルフの性質は隠されてパーツの性質にとってかわられたようになります。パーツがブレンドするのは、防衛パーツたちがあなたの人生の状況を、自分たちが何とかしなければならいと思っているからだそうです。
親が何らかの事情で子どもたちの面倒を見れない家庭で、まだ小さいうちから一番大きな子どもが能力がないにもかかわらず、ほかの子どもたちの親代わりをすることがあるように、防衛パーツは能力がないにもかかわらずあなたを守る責任を背負って、ブレンドすることであなたの心や体の機能を乗っ取って何とかしようと必死になります。
彼らは十分な能力がないのに頑張っているので、その対応方法は稚拙だったり過剰だったりします。
乗っ取っている間に、パーツが持っている体にその信念や感情を宿しているとシュワルツ博士は言います。これを博士は「重荷」と呼んでいます。
「パーツ」のが宿している信念や感情の「重荷」と、「パーツ」は区別が難しいようです。
例えばあるパーツが「お酒を飲んで見たくないものを見ないようにしよう」としてアルコール中毒になっていたとしても、パーツ自体が「悪い」のではなく、パーツがあなたを見たくないものから守ろうして背負っている「重荷」のほうを何とかしてあげられれば、パーツは「価値ある状態」に戻るということを知っている必要があります。
あなたをネガティブな感情から守ろうとしているパーツが抱える「重荷」を下ろすことでブレンドの状態を解除し、セルフの状態に戻ることを目指します。
ブレンドした状態からセルフの状態になるとどう世界やほかの人たちが見えるようになるのかという説明の部分を抜き出しておきます。
パーツがブレンドすると、心理療法でよく起こる投影や転移、またはその他のパーツを通した歪んだものの見方で、私たちは世界を見ることになります。
一方で、セルフの視点は、そのような歪んだフィルターにかけられることはありません。私たちがセルフであるとき、敵対する相手の防衛パーツだけを見るのではなく、その奥にあるそのパーツを駆り立てている苦痛を見ることができます。
あなたの防衛パーツからは、他の人の防衛パーツしか見えません。セルフの明晰さは、一種のX線のような透明視力を与えてくれます。相手の防衛パーツの背後にある脆弱な部分を見ることで、相手に対して心を開くことができるのです。
『「悪い私」はいない』より
システム思考
ブレンドを解除する一つの方法が、システム思考です。
防衛パーツの一人である消防士は恒常性を保とうとするあまり、出てこようとするエグザイルと管理者との間で強化型フィードバック・ループの一部となり、死に至るまでエスカレートすることがあるとシュワルツ博士は書いています。ドラッグのオーバードーズなどがその例でしょう。
インターナル・ファミリー・システムでは、この強化型フィードバック・ループをシステム思考で追跡し、悪循環に至るポイントを回避することを目指します。
システム思考とは、広く長い視点で要素間のつながりや流れを把握し、本質的で持続的な解決策を見出すための問題解決法です。因果ループ図というものを描き、効果的な介入ポイントと介入方法を見つけ出して悪循環から抜け出すことを目指します。
システム思考自体については、いつか「役に立つ問題解決」としてまとめて取り上げて紹介したいと思っていますので、今回はこのくらいの説明にとどめておきます。
パーツに対する共感
管理者や消防士といったカテゴリーは、パーツの本質ではないとシュワルツ博士は言います。「これらのパーツは、あなたの身に起こった出来事によって、その役割を追わざるを得なかっただけ」であって、あなたが安全だと分かれば全く違う振る舞いと役割を担うようです。
インターナル・ファミリー・システムでは、パーツをなくしたり統合したりするのではなく、「セルフ」を中心としたいろいろなパーツの共働体として、共に日常を平和に穏やかに過ごしたり、エキサイティングで楽しいチャレンジをしたり、溺れることなくネガティブな感情を味わうことができるようになる、ということを目指します。
このパーツとの共働というイメージは、ホールブレインの4つのキャラが力を合わせるイメージに近いと思います。交流分析ではどの自我状態で人とやり取りすればうまくいくかを知るということが近いと思います。
スピリチュアル
ブレンドが解除されてセルフの状態になると、周りの人たちのセルフを感じることができ、一種のスピリチュアルな感覚を持つそうです。
またセルフは、誰の中にもセルフを感じとることができるがゆえに、深くつながっているという感覚をもたらし、同時に、ほかの人のセルフともっとつながりたいという強い願いを持っています。この「つながっている」という感覚には、本書の後半で紹介するスピリチュアルな要素が含まれます。それは、魂、タオ、神、ブラフマンと呼ばれる、「より大きなセルフ(SELF)」とつながっている感覚です。それを感じられるのは、私たちが実際にそれとつながっているからなのです。
『「悪い私」はいない』より
それは、ランナーハイなどにあるような「フロー」、あるいは仏教でいう「無我(アナッタ)」の状態であるといいます。
パーツの重荷を降ろし、パーツが互いに信頼しあうにつれ、あなたはますます統合され、一体となり、自分の目的が明確になり、人生のより多くの時間をフロー状態で過ごすことができるでしょう。
(中略)
『「悪い私」はいない』より
- 万物は一つであるという感覚。(中略)
- 私たちは世界のすべてのものとつながっているという意識だけではなく、さらに「拒絶されていても傷つくことがなく、常に注目を浴びたいと願うこともなく、エゴを圧迫する不安から解放された、ずっと安定した、根の深い、広がりのあるセルフ」と関係を持つのです。
- 周囲の人々への思いやりや愛だけでなく、「全人類、そして全世界の人々」への思いやりや愛。
- すべてがうまくいっているという落ち着きを含む、新しい明晰さと叡智の感覚。(中略)
- 私たちの身体を駆け巡る振動エネルギーで、深い歓びを伴います。(中略)
- 死に対する恐怖心が薄れ、死は単なる以降に過ぎないという認知。
こういう状態である「セルフ」がわたしたち一人ひとりの本質であり、パーツの重荷を降ろしてあげることで、どんなひどいトラウマを背負った人でも、この状態になれるとシュワルツ博士は言ってくれています。
これでインターナル・ファミリー・システムの特徴の全体像が説明できたところで、どうやってパーツの重荷を降ろすのかを見ていきたいと思います。
メソッド
インターナル・ファミリー・システムには、バイロン・ケイティの「ザ・ワーク」やジル・ボルト・テイラーの「ホール・ブレイン」のような決まった手順はありません。
その代わり、自分でできる範囲の、パーツを知ったり、軽いパーツのブレンドを解除したり、毎日できる瞑想など、いくつかのエクササイズがあります。
また、難しいトラウマを抱えたエグザイルと向き合うには、トレーニングを積んだセラピスト(IFS認定プラクティショナー)が必要です。
ここでは、エクササイズの簡単な説明をします。概要を読んでみて、自分でエクササイズをやってみたいと思う方はぜひ『「悪い私」はいない』を読んでトライしてみてください。
エクササイズ
- 防衛パーツを理解する
- 理解を深めたい防衛パーツの一つを選んで対話するエクササイズ
- パーツマッピング(パーツの地図を描く)
- いくつかのパーツが体のどこにどんな感覚をもたらしているかを紙に描き、それを見てパーツたちの関係性を書き込むことで、システム思考の「因果ループ図」にあたるものを作ってパーツたちの重荷を降ろすエクササイズ
- ブレンドを解除してセルフに立ち帰る
- 文字通りパーツとのブレンドを解除するためにパーツと対話するエクササイズ
- 内的葛藤を扱う瞑想
- 「相反する二つのせめぎあい」にある二人のパーツの話を聞き、重荷を降ろしてもらってセルフが主導権を取り戻すエクササイズ
- 難しい防衛パーツに取り組んでみる
- あなたがそのパーツに対して煩わしい、邪魔だ、恥ずかしい、怖い、と思っているパーツの重荷を降ろしてもらうエクササイズ
- 毎日のIFS瞑想
- 日常でもセルフの状態でいることが多くなるためのエクササイズ
- 道の瞑想
- セルフをより感じるためのエクササイズ
- ブレンド解除を通してセルフにアクセスする
- セルフが自分の内側でどう機能しているかを探求するエクササイズ
- 消防訓練
- セルフがリーダーシップをとるということを体験するためのエクササイズ
- 悲しむ人の瞑想
- セルフ・リーダーシップを育むエクササイズ
- パーツマッピング(上級編)
- トーメンター1となる人物や出来事を特定し、システム思考の「因果ループ図」を作ってパーツの重荷を降ろすエクササイズ
- 「強い感情的な反応」に対処する
- 上級編のパーツマッピング中に強い感情的な反応が起こった時に行うエクササイズ
- 防衛パーツとワークする(上級編)
- 自分自身でも認めたくない防衛パーツと向き合うエクササイズ
- 身体の瞑想
- 何らかの病気、身体の症状を持っている人のためのエクササイズ
日本にも数名のIFS認定プラクティショナーがいて(本を翻訳した方々)、日本語で(もちろん英語でも)セッションを受けることも可能なようです。
詳しくは、日本IFSネットワークのホームページを確認してみてください。メンバー紹介のページにセラピストにつながるリンクが貼ってありました。
以上が今回紹介するインターナル・ファミリー・システムでした。
評価システムを導入しましたが、個人は特定されませんし、登録なども必要ありませんのでお気軽に気分でポチっとお願いします!
- トーメンターとは、「悩ますという意味の「トーメント」と指導者という意味の「メンター」をかけ合わせたIFSの造語」(訳注より)で、「あなたを悩ませることで、あなたの中の癒すべき何かを教えてくれるメンター」のこと。 ↩︎