エンパワーメントと遺産

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わたしたちは人間として生まれてきて、この社会で生きていくために必要なツールを幼児期の養護者から遺産として受け取ります。

特に、「困難にぶつかったときにどうすればいいのか」ということが、実は非常に重要な子どもたちに遺していける遺産なのではないかと考えています。

わたしには子どもがいませんが、わたしにとってはわたしの属する人類というすべての子どもたちがわたしの子どもであると感じています。昔の下町で近所の人たちが地域ぐるみで子育てをしたように、わたしが未来に遺せる微々たる何かを考えながらこの活動を続けています。

ロールモデル

WE GiRLs CANのミッションとして、「女の子の新しいロールモデルを作ります」(WE GiRLs CANのミッション)というものがあります。

乱暴に言ってしまえばロールモデルはなくてもいいものだと思います。それぞれが自分の価値を簡単に見出せる世界を人類が創造できれば、憧れや前例がなくても恐れることなく自分の才能や能力(ほかの人と違っている資質)を発揮できると感じているからです。

それは別に全員が偉業を成し遂げる必要があるということではありません。

でも、安心して人と違うという価値を大切にするために、今の世界には憧れとしてのロールモデル、前例のあるなしも重要だと考えています。

仕事の社会で唯一で最初の女性である場合に、唯一で最初の女性であることを価値として安心してその仕事をすることができれば問題はありません。でも、唯一であっても過去に、あるいは別の場所に、同じように唯一の女性がいた/いると知っていることはどんなに力になることでしょう。

このように、自分が属する「女」というカテゴリーが誇らしく思える「他の誰か」の存在がするエンパワーメントには力があると思っています。

そういうロールモデルという存在には、「どうせ女だからできない」という能力を疑う言い訳を封じる力さえある気がしています。

しかし、何よりもロールモデルは存在するだけでフォーカスを変える力があると思います。

能力と価値

能力というのはおそらく価値と連動しており、それを本人や周りの人たちが能力として価値あるものと評価するかどうかということなのだと考えます。とりわけ、本人が自分の能力や資質を価値のあるものだと捉えていない場合、人類は大きな損失を抱えることになります。

例えばその人の能力を誰かが見出してプロデュースするというようなことがたまにありますが、見出す人が自分の見出す才能や能力に価値を置いていなければ損失は免れないわけです。

わたしは、最大の困難とは結局は自分自身なのだと考えています。

わたしたちは誰かが失敗するとその人を罰したり批判することがあります。わざとではないくても、失敗することを悪いことと扱ってしまいます。

わたしたちはまた、誰かが何かを知らないということを批判することがあります。誰もが最初からすべてを知っているということがないのに。物知りを評価してものを知らない人をバカにします。

だから、失敗を恐れ、知らないことが露呈することを恐れます。失敗を恐れると積極的に行動することをやめます。知らないことが露呈するのを恐れると積極的に発言するのをやめます。

これは自己評価が低いのではなく、評価そのものを避けているということだと思うのです。そもそも自分や自分の特徴やほかの人との違いに価値があるかどうかを知る機会を失っているのです。

恐れと内在する差別

こういう心理状態のときに、横にいる人が何人か何かを発言して、その中の一人が的外れなことを言ってみんなにバカにされたとしましょう。

「あぁ、何も言わなくてよかった」とあなたは思うでしょうか。

的外れなことを言った人に別の人が優しく教えてあげていたら、教えてあげた人には「相手が知らないことを教える」という機会が与えられ、知らなかった人には「知らなかったことを知る」という機会が与えられます。

あなたが「バカだと思われたくない」と黙っている間に、彼らはお互いの間にお互いが存在する価値を見出して交流しています。

一方の人に知らないことを露呈する能力があるから、別の人の知っていることを教える能力が生かされたと見ることもできます。

一方で、あなたの感じた「知らないことを露呈してバカにされたくない」という気持ちの裏に、バカにする人を看過することは奨励しませんが、その前に自分に内在する「ものを知らない」ということは「バカにされるに値する」という考えの支持が潜んでいることに気がつきませんか?

もし、あなたの中に、「ものを知らないことはバカにされるようなことではなく、優しく教えてあげればいいだけのことである」という考えがあったら、あなたはバカにされることを恐れたでしょうか?

差別とは、以前のブログ「差別と偏見」に辞書から引用した通り「扱いに差をつけること。特に、他よりも不当に低く取り扱うこと。」です。差別をするのは偏見を持っているからです。偏見とは「ある集団や個人に対して、客観的な根拠なしにいだかれる非好意的な先入観や判断すること。」です。

そう考えると、「ものを知らないことでバカにされることを恐れる」というのは、「ものを知らないとバカにされる」ということを認め、その考えを下支えしてしまっているように見えます。

つまり、「ものを知らないとバカにされる」ということを認めているからこそ恐れているのではないでしょうか。

この場合の偏見のターゲットは「自分」です。「私はものを知らないかもしれず、そうだとしたら人にばかにされるに値する人間であり、だから私はそれが露呈するのを恐れる」と偏見を持って自分を見ていることになると思うのです。

しかし、自分が自分の偏見によって真っ先に自分のことを差別しているということに気がついている人はほとんどいません。たいていは「私が恐れなくていいようにバカにするのをやめて欲しい」という形で、外側に改善を求めます。

もちろん、繰り返しますが差別行為そのものは看過すべきことではありません。でも、根本的な解決をするには、個々が内在する差別を下支えする考え、つまり自分の偏見に気がつく必要があると考えています。

「ものを知らないことをバカにされることを恐れる」ということは、「ものを知らないとバカにされるということを認める」ことです。認めなければ恐れられないのですから。それは間接的に「ものを知らないことをバカにしてもいい」というメッセージとして差別したい人々に伝わると思います。「ものを知らない人はバカである」と認めたいなら仕方がありませんが、そうでないならその偏見が自分の中にないかどうかを検証し、それと向き合うことで毅然とした態度でバカにする人々と対峙できるようになると思うのです。支持者がいなければきっとこの偏見と差別は力を失います。

最大の困難である「私」

幸福が状態であって目指すものではない(「幸福と希望」を参照)のと同じように、恐れは外にあるのではなく、自分の中にあるのだと思います。

では、偏見に基づく恐れとはどのように向き合えばいいのでしょうか。

この答えのひとつは「エンパワーメント」であると考えています。(エンパワーメントの意味はコトバンクで!)

人生は初めてのことに満ちています。リハーサルも練習もありません。リスクだらけでぶっつけ本番です。そしてあらゆる機会に満ちています。機会はわたしたちに経験をもたらしてくれます。経験とは動く飲む食べるなどの物理的な反応だけでなく、わたしたちに感情をもたらし、生きている実感を感じさせてくれるものです。

「私」という経験を余すところなくするためにも、失敗したら悔しくなり新たな工夫をし、知らないことを知ったらびっくりして調べて勉強をし、人と違うということの価値の認識を持って、先ずは真っ先に自分を励まし、優しく教えてあげ、できるようになるまで待ち、信じて任せ、一歩ずつ前に出るのがいいと思うのです。自分をエンパワーするということです。

たとえそれが「できない」「わからない」「知らない」と言葉にすることであっても、そこから発生する大切な価値があります。

恐れも大切な感情です。恐れを感じることで偏見を発見できるのであれば、重要な役割を担っています。

恐れを超えるには勇気が必要です。どんな自分でも味方でいてくれる自分が励まし続けてくれたら、きっと心強いことでしょう。

自分をエンパワーするロールモデルは、自然に自分だけでなく周りをエンパワーすることができるようになるでしょう。

毎日何度も自分に厳しくダメ出しをしていると、それは口癖になってふとした瞬間に飛び出してきます。語学の勉強をした人にはわかると思うのですが、繰り返し聞いて繰り返し話していると、その言語がすらすらと出てくるようになります。

逆に、毎日何度も自分を励ましていると、それが口癖になってふとした瞬間に出てきます。わたしは「大丈夫」が口癖なので、人から「大丈夫っ教」(大乗仏教にかけて)と笑われたことがあります。

自分をエンパワーするロールモデルとなることの恩恵は、自分だけでなく周りの人たちにも自然に伝播していくことでしょう。

わたしはこの困難に対する対処方法を、反面教師的に母から学びました。母の身を持っての教えが、わたしという存在を通して少しでも人の役に立ちますように。

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