ステレオタイプの科学感想

『ステレオタイプの科学』感想

なくてはならないものなのに、それによって苦しむことのあるものというものは数えたらきりがないと思いますが、アイデンティティもそのひとつではないでしょうか。

このブログでも何度か書いているのですが、わたしは人の命には「私とは何者か?」という問いが含まれているように感じています。

わたし達は頭のどこかでその問いに答を出す公式や定理があって、その解がひとつであるかのように考えてしまいがちです。実際にはx+y=zのような足し算の単純な公式ですら、どんな数字が入るかによってその解zは全く違うものになります。

「=」イコールを挟む恒等式と呼ばれる式は、英語では「identity」と言います。イコールの右と左は違って見えていても同じであるということを意味する式のことです。この数式はまさに「私」=「○○」と書き表される「私とは○○である」を恒等式に当てはめたものです。

この本は「ステレオタイプ」という公式の右側に入るものによって起きているマイナス面に注目して研究した結果について書かれた本です。

アイデンティティが自分にプラスに働く面とは何でしょうか。

例えば、女というアイデンティティを例にとってみれば、空気が読めて気が利いて優しく奥ゆかしいという女性のステレオタイプはわたし達に自信を与え、誇りをもって仕事に取り組むモチベーションを与えてくれます。一方で、ネガティブなステレオタイプもあり、感情的で嫉妬深く数字に弱くて論理的でないと言われたら、腹が立つやら滅入るやら、消極的な気分になります。

このように、アイデンティティはわたし達を助けるものでもありますが、本書では同時にアイデンティティはわたし達を脅し、プレッシャーを与え、委縮させて、わたし達が持つ本来の能力の発揮の機会を奪うものでもある、ということが書かれています。

この本では、ネガティブなステレオタイプに対して「そんなことはない、証明して見せる!」という意気込みで取り組むことがかえってプレッシャーを大きくし、逆の結果を招いてしまうという仮説を、様々な実験を通して立証していきます。

それは、わたしがこの活動を通して訴え続けていることと重なります。

自分が含まれるグループのステレオタイプではないことを証明しようとすると、途端にわたしたちは自分の本当の力を失う、とこの本の著者であるクロード・スティールは言います。

しかし、所属感覚はとても重要なものです。悪いステレオタイプだけでなく、いいステレオタイプにプラスの効果があることも忘れてはならないと思います。

このクロード・スティールの研究がとても素晴らしいと思ったのは、その仮説を検証する副産物として、マイナスのパフォーマンスが作られない条件があれば、誰でも本来の力が発揮できるという実験をして、びっくりするほどの成果を得ているところです。

「私は女である」から、「私は女ではあるが数字に弱くない」という抵抗と証明に使うエネルギーを、どのようにして効果的に「私は女であり、数学が得意である」に変えるのかというワクワクする解決策が続々と登場し、困難に見える固定された世界に動きと希望と喜びをもたらしてくれました。

この本を読むことの冒険をネタバレで半減させたくない方のために、ここでは詳しく書かないことにしますが、まずは「クリティカルマス」というキーワードがあり、次に「ナラティブ」、「学習の機会」、「橋としてのアイデンティティ」と続いています。ぜひ本を買って読んでみてください。

わたしが直感的にブログで主張して「勉強会」などで勧めていることが証明されたようで、とてもうれしい本でした。